外務省: [ODA] 重点政策・分野別政策 開発途上国のHIV/AIDS対策への日本の取組み
開発途上国のHIV/AIDS対策への日本の取組み -「沖縄感染症対策イニシアティブ」で積極的な貢献- |
平成13年6月
日本は、九州・沖縄サミットの機会に「沖縄感染症対策イニシアティブ」として、個別のHIV/AIDSをはじめとする感染症対策支援、公衆衛生の増進、研究ネットワークの構築、基礎教育、水供給等の分野での協力を強化することとし、今後5年間で30億ドルを目途とする協力を行う旨表明した。現在、この枠組みの下で、開発途上国のニーズに適切に対応しながら、この分野での協力に着実に取り組んでいる。これまで約7億ドルに及ぶ支援策を決定・実施に移している。また、日本主導でG8諸国・途上国・国際機関・NGOによる具体的感染症対策の協議を進めてきており、昨年12月には、これら全ての関係者の出席を得た感染症対策沖縄国際会議を日本が議長となって開催した。感染症の中でもとりわけ「人間の安全保障」に大きく係わり、また開発途上国の開発、貧困削減の中心的課題の一つとして認識されているHIV/AIDSの問題について、日本は、下記の通り、同イニシアティブの基本方針に沿って積極的な協力を展開している。日本としては、特に深刻な影響を受けているアフリカ、アジアなどの国々に対し、通常のODAスキームに加え、2001年度から新設された100億円(約8,000万ドル)の「感染症対策無償」を活用し、開発途上国のHIV/AIDS問題も含めた感染症対策への取組みを積極的に支援していく考えである。また、国連に設置した「人間の安全保障基金」を通じ、約1,000万ドルの感染症対策プロジェクトを実施し、現地のNGO活動支援のための取組みを強化していく。
このような九州・沖縄サミットを契機とする流れの中で、5月、ブッシュ米国大統領が感染症対策のための保健基金構想支援をアナン国連事務総長及びオバサンジョ・ナイジェリア大統領の出席の下に打ち出し、2億ドルの当初資金を提供することとした旨発表したが、日本としては、こうした保健基金構想はHIV/AIDS、マラリア、結核等の主要感染症と闘うために大変重要と考えている。日本は米国をはじめ立場を同じくする国々との協調の下に、日本としての応分の協力を検討している。
今後とも、こうした基金設立に向けた努力なども含め日本は具体的行動において引き続き感染症対策のリーダーシップを発揮していく。
1.市民社会、援助国及び国際機関との連携 |
<ナイジェリアに日米合同調査団、マラウィに日加合同調査団を派遣>
世界第1位、第2位の援助国である日米は、これまで日米間のグローバルな枠組みの下で緊密な援助協調を進めてきた。特に、人口・保健分野においては、ザンビア(1998年12月)、バングラデシュ(2000年2月)、カンボジア(2000年6月)及びタンザニア(2001年1月)に日米合同プロジェクト形成調査団を派遣し、HIV/AIDS、結核をはじめとする感染症対策に取り組んでいる(囲み1)。
日米両国は、2001年度の次期派遣国としてナイジェリア及びネパールに合同調査団を派遣することに合意した。特に、270万人のHIV/AIDS感染者・患者数を抱え、緊急に対応が必要なナイジェリアへの調査団の派遣は、本年1月の森前総理のアフリカ訪問のフォローアップの一環として位置付けられるものである。
また、カナダとの間でも、HIV成人感染率が約16%と高いマラウィに対して初めての日加合同プロジェクト形成調査団を派遣し、同国のHIV/AIDSをはじめとする感染症対策に共同で取り組むことに合意した。
囲み1:ザンビアにおけるハイリスクグループへのHIV/AIDS啓発活動支援 ザンビアへの日米合同調査団の成果として、2000年3月より、ザンビアの国境地帯における日米合同によるHIV予防啓発のための支援活動を開始した。このプロジェクトは、長距離トラック運転手及び性産業従事者といった感染の危険性の高いハイリスクグループに焦点をあて、日本側が実施主体の現地NGO(ワールドビジョン・ザンビア)に資金協力を行うとともに、モニタリング・評価の専門家を派遣する一方、米側は米系NGOを通じプログラム全体の評価及び避妊具の普及を支援するものである。 |
<日本のNGOによる調査団の派遣・プロジェクトの実施>
感染症対策を効果的に行うに当たっては、住民に直接行き亘る草の根レベルでのきめの細かい対応が重要であり、NGOの果たす役割が重要となっている。この観点から、日本は、日本のNGOによるプロジェクト形成調査団を派遣した。具体的には、「HANDS(Health and Development Service)」によるケニアのSTI/HIVに必須な医薬品・医療機材供給・管理システムに関する調査(2001年3月)、「ケア・ジャパン」によるベトナムの製造業及び建設業の労働者のHIV/AIDS及び性感染症対策に関する調査(2001年2月)をNGOの視点からそれぞれ実施し、7月には「ワールド・ビジョン・ジャパン」によるタンザニアのHIV/AIDS予防対策に関する調査を行う予定。今後、これらの調査を踏まえ、具体的なプロジェクト/プログラムを形成していく考えである。「ワールド・ビジョン・ジャパン」は、別途「小規模開発パートナー事業(注)」を通じ、タンザニアのンゲレンゲレ郡におけるHIV/AIDS対策のためのキャパシティ・ビルディング事業を実施する予定である。また、2000年度NGO事業補助金として、「アドラ・ジャパン」、「国際保健協力市民の会(SHARE)」及び「AMDA」が保健衛生事業や地域総合振興事業の活動の中でHIV/AIDS予防教育活動などを行い、政府として総額約16万3,000ドルの補助金の交付を行った。
(注)社会開発等の分野で協力のノウハウを持つ我が国NGO、地方公共団体、大学等をODA事業のパートナーとして位置付け、実施部分を委託する国際協力事業団(JICA)の事業。
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<NGOを通じ100万ドルを超える草の根無償を実施>
HIV/AIDS対策を効果的に進めるためには、コミュニティレベルでのきめの細かい援助が必要である。我が国は、現地の地方公共団体、医療機関及び草の根レベルの活動を行っているNGOを通じ、ベトナム、ミャンマー、コンゴ民主共和国、ハイチ、ケニア、ガーナ、ルワンダ、バングラデシュ、ベネズエラ、インド、ザンビア、タイ(囲み2)、マレーシア、パキスタン、モーリシャスといった世界のHIV/AIDSに苦しむ多数の国々の予防・ケア、医療施設整備、孤児対策などを支援するために、2000年度に総額100万ドルを超える草の根無償資金協力を行った。
囲み2:ガーナの野口記念医学研究所HIV/AIDS、性感染症巡回啓発計画 日本は、ガーナ東部におけるHIV/AIDS、性感染症に対する巡回啓発活動、自発的カウンセリング及びHIV/AIDS検査を目的とする野口記念医学研究所のプロジェクトに対し約9.5万ドルの草の根無償資金協力を行った。このプロジェクトは現地のNGOと共同で実施される。具体的には、移動検査車を提供し、首都周辺の村落を対象としたHIV及び性感染巡回啓蒙活動及び簡単な検査が行われることになる。移動検査車には、視聴覚機材も装備され、HIV感染者の体調改善を助けるための情報の提供が可能になる。 |
<現地のNGOを効果的に活用する参加型事業>
日本は、1997年度以降草の根レベルで住民が直接裨益するプロジェクトを住民の参加を得て実施する「開発福祉支援事業」を行っている。これまで感染症対策分野でフィリピン、タイ、ジンバブエ、南アフリカ(囲み3)、ザンビアにおいて合計6件のプロジェクトを行っており、現地のNGO等が実施を担っている。また、カンボジア、ラオス、タンザニアにおいて新たに3件の協力が開始される。
囲み3:南アフリカの「青少年のためのHIV/AIDS教育プロジェクト」 南アフリカでは、人口の約10%がHIV陽性であり、毎日1,700人が新たに感染していると言われている。発症者は特に20代が多く、10代で感染していると考えられている。本プロジェクトは、HIV/AIDSの蔓延を防ぎ、エイズによる死亡率を減少すること、エイズ患者を家族に持つ青少年や孤児のエンパワメントを目標として、本年3月から開始された。 教会をベースにエイズ・ワークショップを開き、エイズ教育を行うトレーナーとなる青少年リーダーを育成している。本プロジェクトの実施団体である「ナショナル・プログレッシブ・プライマリーヘルスケア・ネットワーク」は、保健組織の全国的なアンブレラ組織として住民参加による保健水準向上の提唱、保健従事者の育成、住民参加プログラムの訓練を行っている現地NGOである。 |
<100万ドルのIPPF「HIV/AIDS信託基金」>
人口・リプロダクティブ・ヘルス分野での最大の国際NGOである国際家族計画連盟(IPPF)内に昨年日本が新設した100万ドルの「HIV/AIDS信託基金」の具体的プロジェクトが東・東南アジア・大洋州、アフリカ及び南アジアで開始された。特に、バンコクで行われたHIV/AIDSに係わる啓発トレーニング・プログラムは、タイのHIV/AIDS対策の経験・ノウハウをアフリカ及びアジアの家族計画協会の関係者に移転するという南南協力の視点を取り入れたものであり、参加者は、タイの宗教関係者を巻き込んだコミュニティレベルでのアプローチについて研修を行った(囲み4)。
日本は、この「HIV/AIDS信託基金」に対し2001年度においても前年度と同規模の拠出を決定した。
囲み4:IPPF「HIV/AIDS信託基金」バンコク・トレーニング 本年2月、タイ家族計画協会の主催により、アフリカからボツワナ、ウガンダ、ナイジェリア、アジアからインド、カンボジア、ミャンマー等総勢約20名の参加を得て実施した。タイ南部においてエイズ患者の救済活動を行っている寺院の活動及びイスラム教徒が多数を占める地域の啓発活動などを視察し、コミュニティ・レベルで宗教関係者と連携したHIV/AIDS対策の重要性について認識を深めた。 |
2.途上国の主体的取組みの強化 |
<HIV/AIDS、結核、その他関連感染症に関するアフリカサミット開催支援>
4月26,27日、ナイジェリアのアブジャにおいて、OAU主催HIV/AIDS、結核、その他関連感染症に関するアフリカ・エイズ・サミットが開催され、アフリカの開発、貧困削減の中心的課題の一つとなっているHIV/AIDSをはじめ結核、その他の感染症対策について議論を行った。日本からは首席代表として有馬政府代表が参加した。我が国は、同サミットの円滑な運営を支援するため、OAU事務局からの要請に応じ、同会議の広報経費として5万ドル以上の資金援助を行った。
<ベトナムのHIV/AIDS予防対策に346万ドルの無償資金協力>
ベトナムのHIV感染率は近年急速に増加しており、同国のHIV/AIDSの蔓延を防止し、抑制することは緊急の課題である。日本は、同国のHIV/AIDS防止計画の実施を支援するため、3億8,200万円(364万ドル)を限度とする無償資金協力(囲み5)を供与することとした。これは、ホーチミン市及び周辺の9省約1,700万人の住民におけるHIV/AIDSの感染拡大を防止するため、血液検査・スクリーニング機材、啓発関連機材、コンドーム購入のための資金を供与するものである。
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囲み5:ベトナムのエイズ防止計画支援 本プロジェクトは、HIV/AIDS予防、対策を主眼とした無償資金協力による第1号のプロジェクトである。本プロジェクトでは、コンドーム、啓発用機材、血液検査・スクリーニング機材の調達により、総合的、多面的にHIV/AIDS対策が強化されることが期待される。対象地域は感染者の多い南部であるが、その中心的都市であるホーチミン市では、地方エイズ委員会の「フレンド・ヘルプ・フレンド・クラブ」が活動主体となって一般住民に対するHIV/AIDS予防の啓発活動、カウンセリングを行っている。本プロジェクトで調達される約730万個のコンドームは、医療機関や地方エイズ委員会によって使用啓発のために無料配布される。ホーチミン地方エイズ委員会は、1998年には人民委員会から5,000個のコンドーム提供を受け、IEC(情報・教育・コミ ュニケーション)活動を通じ無料配布を行った。また、青年同盟が運営する「コンドーム・コーヒー・ショップ」、婦人同盟が運営する「希望のコーヒー・ショップ」、高校生・大学生によるボランティアでもコンドームによる使用啓発、無料配布が行われている。 |
<スリランカの安全な血液供給システム改善に1,436万ドルの円借款>
日本は、スリランカの血液供給改善プロジェクトに15億800万円(1,436万ドル)を限度とする円借款を供与することとした。このプロジェクトは、同国の感染症対策のため安全でかつ効率的な輸血供給システムを確立することに資するものである。この円借款は、中央血液センターの建設、同センター及び地域血液銀行への機材供与及びエンジニアリング・サービス、研修等のコンサルティング・サービスのために活用される。
<223万ドルのエイズ対策・血液検査特別機材の供与>
日本は、途上国に対しHIV/AIDS感染者・患者の早期発見・診断はもとより予防教育、2次感染防止対策として必要な資機材(エイズ診断・検査、安全な血液・献血、啓発活動用資機材)を供与している。2000年度は、総額約2億3,430万円(約223万ドル)相当の資機材を供与することとした(フィリピン、ミャンマー、カンボジア、南アフリカ、タンザニア、メキシコ、ラオス、スリランカ、セネガル、マラウィ及びナイジェリア)。2001年度においても、ザンビア、南アフリカ、タンザニア及びメキシコに供与する計画である。
<インドシナ3国のHIV/AIDS予防対策プロジェクト>
我が国はADBの貧困削減日本基金を通じ、カンボジア・ラオス・ベトナムにおける国境を越えたHIV/AIDS感染の防止を地域的な観点から実施するため、800万ドルを供与することとした。その具体的な支援内容は、3ヶ国の地域的なHIV/AIDSの予防のための関係者の意識改善活動、避妊具の使用促進、地域的なサーベイランス・モニタリングの実施、そのための3ヶ国の公共機関、地域住民、NGO等の能力強化を行う。
<FASIDエイズ・マネジメント・コース>
(財)国際開発高等教育機構(FASID)(注)は、昨年11月、ホーチミン市において、HIV/AIDS問題解決のためのプロジェクト・マネジメントについて日本及びインドシナ地域の関係者向け研修として、エイズ・マネジメント・コースを実施した。このプログラムは米援助開発庁(USAID)との協力で開催され、米NGOの支援も得ている。また、FASIDは、日・ASEAN連帯基金の支援を得て、本年中にチェンマイ市において上級コースを実施する予定である。
(注)FASIDは、理論・実践双方を兼ね備えた開発協力の専門家を育成するために1990年に設立された。
<カンボジアのHIV/AIDSキャパシティ・ビルディング支援>
1991年に初めて発見されたカンボジアのHIV/AIDSは急速に拡大しており、最近の国連エイズ合同計画(UNAIDS)報告によれば、現在20万人以上の人々がHIV/AIDSに感染している。HIV/AIDSにより貧困が悪化し、それが同国の感染拡大を引き起こしている。我が国は、ADB日本特別基金を通じ、同国のHIV/AIDS問題に対応する政府の能力を構築し、効果を高めるために、60万ドルの技術協力を供与することとした。技術協力の具体的内容は、同問題に対するセクター横断的な対応能力及び地方の対応能力を強化するとともに、危険要因を発見するためのサーベイランス・データ及びHIV/AIDSの感染傾向・パターンの分析を行うもの。
囲み6:タイ国のエイズ予防地域ケアネットワーク・プロジェクト 1998年より、タイのパヤオ県を中心として、HIV/AIDSの予防とケア体制の確立を目的としたプロジェクトを実施中である。具体的な活動として、HIV/AIDSに関する問題解決能力を高めるための人材育成を目的とした研修の実施、感染者・患者及び家族のケアに必要な体制の確立、及びコミュニティレベルの現状調査をもとに各地区での対策活動の推進を行っている。このプロジェクトは、2003年1月まで継続して実施する予定である。 |
<保健医療分野アフリカ開発支援セミナーの開催>
世界のHIV/AIDS感染者・患者の約70%が世界人口の10%を占めるサハラ以南アフリカに集中している。こうした危機的状況を踏まえ、我が国は、TICADプロセスの一環として昨年11月にUNAIDSとの共催で、情報・知見の交換・共有を通じHIV/AIDS対策における南南協力を促進することを目的として、アフリカ8ヶ国、アジア2ヶ国、中南米1ヶ国の行政官及び専門家11名を招聘し、標記セミナーを開催した。
<ケニア及びフィリピンにおける第三国研修>
善意ヒンクリーメイン
日本は、自然的、社会的、文化的に共通の基盤を持つ一定の開発途上地域の中からある程度の技術水準に達した研修実施国を選定し、近隣諸国から研修員を招請して実施する第三国研修を実施している。これは、現地事情により適合した形で、我が国の技術・知識の移転を図るとともに、途上国同士の技術協力を促進することを目的としている。
HIV/AIDS対策についてもこうした第三国研修を実施しており、アフリカについては日本の無償資金協力及び技術協力で協力しているケニアの中央医学研究所(KEMRI:Kenya Medical Research Institute)を拠点として、血液検査技術の周辺国への普及を目的として、南ア、ボツワナ等周辺国16ヶ国を対象とした「血液スクリーニングセミナー」を毎年実施している。また、アジア・太平洋地域についても、無償資金協力で建設したフィリピンの熱帯医学研究所(Research Institute for Tropical Medicine)を拠点として、97年度から第三国研修「HIV感染及び日和見感染症の診断技術」を実施しており、毎年この地域20ヶ国からの人材を招聘し育成を図っている。
囲み7:アフリカにおける感染症対策の拠点プロジェクト 日本はアフリカでの感染症分野の協力を効率的かつ効果的に進めるために、第三国研修による南南協力を実施してきたが、その拠点となってきたのがケニア中央医学研究所(KEMRI)とガーナ野口記念医学研究所である。これら2つの研究所は、過去に実施された技術協力の成果をアフリカの近隣諸国に普及する上で大きな役割を果たしてきている。ケニアにおいては1998年度よりHIV/AIDS、ウイルス性肝炎の診断技術に関する第三国研修を(囲み8参照)、ガーナではWHOとの連携の下、1991年度より95年度までポリオ診断、96年度から98年度までは黄熱病診断に関する第三国研修をそれぞれ実施してきた。なお、橋本元総理が提唱した国際寄生虫対策においても、両研究所が、周辺国を巻き込んだ技術・情報ネットワークの拠点となっていくことが期待されている。 この2つの拠点に加え、本年3月よりザンビア大学教育病院を拠点としたHIV/AIDS及び結核対策プロジェクトを立ち上げた。 |
5.研究活動の促進 |
<ザンビアにHIV/AIDS及び結核対策プロジェクトを開始>
日本は、ザンビア大学教育病院を対象に、過去10年にわたるプロジェクトを通じて、ウイルス検査室及び結核検査室の設立・機能強化に対する技術協力を行ってきた。3月に開始された新プロジェクトでは、両検査室のザンビアにおけるHIV検査及び結核検査の機能強化を図るとともに、両検査室を拠点とした人材育成事業を通じて地方の検査室における両疾患検査技術の標準化、質的向上を図り、同国における効果的なHIV/AIDS対策及び結核対策の推進に貢献することを目的としている。
また、ケニアの中央医学研究所でも、5月より、これまで実施してきたHIV/AIDS、急性呼吸器感染症、ウイルス性肝炎に関する技術協力に加え、寄生虫対策を含めた新たなプロジェクトを立ち上げた。同研究所では、HIV/AIDSスクリーニング・診断キット(囲み8)、HIVウイルスの分離・同定、抗ウイルス活性を持つ薬草の開発、母子感染予防に有効な抗HIV薬の妊婦への投与法の確立を目指して研究協力を行っている。
囲み8:ケニア中央医学研究所のHIV/AIDSスクリーニング・キットの開発・普及 HIV/AIDS血液スクリーニング診断キットについて、研究・開発、更には現地生産を目指した技術移転がこれまで実施されてきた。診断キット製造に当たり、現在はまだ原材料は日本からの輸入に頼っているが、99年2月に完成した無償資金協力による高度安全実験室(P3ラボ)を活用して、今後は原材料を自国で調達できるレベルにまで到達することが今期プロジェクトの目標である。本プロジェクトでは診断キット生産技術の確立とともに、診断技術の普及もケニア国内はもちろんのこと、周辺国への技術移転も視野に入れている。 今後、これら血液診断キットに関する生産体制の確立及び品質管理の充実が、ケニアにおける血液安全性確保のシステムを構築していく上で重要な課題である。 |
<タイのHIV/AIDS研究・開発協力>
我が国は、HIV/AIDS及び新興・再興感染症に関する研究・開発のためのキャパシティ・ビルディング(能力構築)を目的として、タイの国立衛生研究所と協力プロジェクトを行ってきている。このプロジェクトの枠組みの中で、我が国は、他のドナー及び主要研究所の参加を得て、同国のHIV/AIDSワクチン評価・検定制度の向上に向け新たなイニシアティブを開始することとした。これを受け、本年3月にはタイ日米英の4ヶ国から参加者を得て、ワークショップを開催した。
囲み9:エイズワクチンの日タイ共同研究 日本人研究者が開発したBCGを利用するワクチン製造技術を応用して、98年からタイのHIV感染拡大阻止に有効なタイ型ワクチンを開発する日タイ共同研究が進められている。 この研究は、タイ国立衛生研究所(NIH)が研究拠点となり、タイ側は政府研究機関、大学等、日本側は国立感染症研究所、科学技術振興事業団が参画している。 なお、タイのNIHは86年に日本の無償資金協力により設立され、その後10年以上にわたり感染症予防に関する日タイ研究協力プロジェクトが実施されてきた。今回のワクチン共同開発研究はこうした長年にわたる日本の協力成果が大いに生かされている。 |
6.国連人間の安全保障基金を通じた協力 |
<南アフリカのHIV/AIDS予防対策支援>
日本と国連は、世界最大のHIV/AIDS感染者・患者数を抱える南アフリカのHIV/AIDSの予防と軽減のために、「国連人間の安全保障基金」から約100万ドルの支援を行うこととした。
<南太平洋諸国のHIV/AIDS対策支援>
日本と国連は、「国連人間の安全保障基金」を通じ、マーシャル諸島のSTI(性感染症)/HIV/AIDS対策(囲み9)として約25万ドル、トゥバルにおけるコミュニティアプローチを通じたリプロダクティブヘルス(RH)状況改善計画に約17万ドル、キリバスのRHの観点からHIV/AIDSの脅威及び環境悪化に対する対策として約15万ドルを供与することとし、現在実施に移している。これらのプロジェクトは、アジア太平洋島サミットのフォローアップの一環として実施するものである。
囲み10:マーシャル諸島におけるSTI/HIV/AIDS対策 本案件は、国連人口基金(UNFPA)及び世界保健機関(WHO)のプロジェクトである。 プロジェクトの具体的内容は、啓蒙教育用資料の作成、ヘルスセンター・RHクリニックにおける医療器具・避妊具の拡充、郊外・漁村へのサービス提供のための移動クリニック用車両の供与、ヘルスワーカーのトレーニング、ナイトクラブ・漁船・男性クリニックへのコンドーム配布キャンペーンの実施、医療サービス提供のためのシステム整備を行う。 |
7.日和見感染対策(結核対策) |
<カンボジアの結核対策支援>
カンボジアにおいては、人口当たりの結核罹患率が世界でも最悪のレベルにあり、毎年1万人以上が結核により死亡している。また、結核患者のうち約3%、首都プノンペン市では約11.5%がエイズに感染していると報告されており、HIV/AIDS感染の蔓延に伴う結核患者の急増、HIV・結核の重複感染が懸念されている。日本は、無償資金協力(供与限度額8億300万円)により同国の結核対策の中心的施設である国立結核センター(CENAT)の施設の拡充及び機材の調達を行い、本年3月にフンセン首相の出席の下その竣工式を行った。国立結核センターへの協力は、無償資金協力と技術協力の「結核対策プロジェクト」(囲み10)との協調により行われており、結核対策の行政、研修、検査・研修等の機能回復・向上が期待されている。
囲み11:カンボジアの結核対策プロジェクト(技術協力) 1999年より、カンボジア保健省及び国立結核センターを拠点として、同国の国家結核対策計画の効果的な実施を行うとともに、DOTS(Directly Observed Treatment, Short Course)(注)を含む質の高い結核対策サービスの強化を目的として協力を展開してきた。また、日米連携の一環として、結核対策、HIV・結核重複感染対策を実施している。これまで結核患者中のHIV陽性率調査の検査指導を目的として専門家の派遣を行うほか、本年は中核的な病院の結核関係医師を対象とした結核・エイズ対策研修の実施等を予定している。本プロジェクトは2004年7月まで継続実施される予定である。 |
(注)短期化学療法を用いた直接監視下治療。対面指導により毎回の服薬を確認しながら数カ月に渡り薬剤投与を施すことにより完治率を高めるというWHOが推奨する治療手法。
<中国の貧困地域の結核対策に300万ドルの無償資金協力>
WHOによれば、中国では、患者数は年130万人とインドについで世界第2位の結核高負担国であり、結核による死亡者は年間約25万人に達している。中国政府は、1991年から世銀融資によりWHOが推奨するDOTSを用いて中国国内13省における結核の抑制に努めてきており、結果として毎年約150万人の結核患者が治癒されてきている。しかしながら、世銀融資対象外の貧困地域(省)においては、資金不足により予算措置が十分には行えず、その結果、結核の流行が抑制できず、貧困の格差にさらに拍車をかけることも懸念されている。
このため、中国政府はWHOとの連携の下、中国貧困地域(9省、2自治区)における結核の抑制を目的として「貧困地域結核抑制計画」を策定した。日本は、中国政府の要請を受け、この計画実施のための医療機材(顕微鏡)および抗結核薬の購入に必要な資金につき3億2,100万円(300万ドル)の無償資金協力を供与することとした。これにより、対象省の人口の35%の居住地域においてDOTSが開始され、今回の抗結核薬で約4万5千人の結核患者の治療が可能となる。
<フィリピンの国立結核研究所設立に395万ドルの無償資金協力>
WHOによれば、フィリピンは世界の23の結核高負担国の第7位であり、99年には23.4万人の患者が発生し、毎日約60人が結核で死亡している。我が国は、フィリピンに対し、プロジェクト方式技術協力として結核対策プロジェクトを実施している。我が国は、最近、結核対策における研修、検査、研究、精度管理のため、国立結核研究所の設立及び必要機材の整備に必要な資金として、4億1,500万円(395万ドル)を限度とする無償資金協力を供与することとした。
<南部イエメン結核対策プログラムに545万ドルの無償資金協力>
イエメンには約1万2,000人の結核患者が登録され、毎年約5,000人の新規患者が発生している。我が国はこれまで、イエメンの結核対策プログラム支援のため、総額約25億円の無償資金協力とプロジェクト方式技術協力を実施してきた。また、最近、南部イエメン結核対策拡充計画のため、5億6,400万円(537万ドル)を限度とする無償資金協力を供与することとした。この支援は、研修・訓練及び結核検査・研究のためのアデン結核対策センターの建設に充当される。
更に、アデン病院の結核病棟改修プロジェクトとして7.6万ドルの草の根無償を供与した。
<草の根レベルで38万ドルのNGO支援>
日本は、イエメン、インドネシア、ベトナム、ハイチ及びカンボジアの結核対策のために、現地のNGOを通じ総額38万ドルの草の根無償を実施した。
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